東京高等裁判所 平成3年(行ケ)32号 判決
第一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(本願発明の要旨)及び三(審決の理由の要点)は、当事者間に争いがない。
第二 そこで、原告主張の審決取消事由の当否を検討する。
一 成立に争いない甲第二号証(特許出願公告公報)によれば、本願発明の技術的課題(目的)、構成及び効果が左記のように記載されていることが認められる(別紙図面A参照)。
1 技術的課題(目的)
本願発明は、場所打ちコンクリート中に主筋が立設して成るコアー部分と、右コアー部分を囲繞拘束する剪断補強筋を埋設して成る外郭体によつて構成した、鉄筋コンクリート柱の構築法に関する(第一欄第一四行ないし第一八行)。
従来技術は、柱等をプレキヤストコンクリート工法によつて製造しておき、現場において各々の継手部分を順次に接続し、所期の建物を建築している。しかしながら、プレキヤストコンクリート製の柱の継手部分は構造的に複雑であつて、接続作業が非常に煩わしい(第一欄第二〇行ないし第二欄第五行)。
本願発明の技術的課題(目的)は、主筋の接続については場所打ちコンクリート工法と同様の自由度を確保しつつ、プレキヤストコンクリート製の外郭体を使用して、鉄筋コンクリート柱を簡便に構築する方法を創案することである(第二欄第六行ないし第一〇行)。
2 本願発明は、右技術的課題(目的)を解決するために、その要旨とする特許請求の範囲記載の構成を採用したものである(第一欄第二行ないし第一一行)。
本願発明の外郭体は、剪断補強筋(いわゆる、ループ筋)を埋設しているのみで、主筋を埋設していないことを特徴とする(第二欄第二四行ないし末行)。
別紙図面Aはその一実施例を示すものであつて、第1図は本願発明の実施に使用する外郭体の斜視図と断面図(1がコンクリート製の筒体である角筒体、2が剪断補強筋)、第2図は鉄筋コンクリート梁構築用の外郭体の斜視図と断面図、第3図は外郭体の製造状況を示す断面図、第4図は鉄筋コンクリート柱及び鉄筋コンクリート梁の構築状況の説明図(8が主筋)、第5図は構築された鉄筋コンクリート柱の断面図(10がコアー部分)、第6図は構築された鉄筋コンクリート梁の断面図である(第六欄第一〇行ないし末行)。
3 作用効果
本願発明によれば、現場の基礎あるいはスラブに植立した主筋に、あらかじめ成型しておいたコンクリート製の外郭体を被嵌起立させ、外郭体を型枠代わりに用いて生コンクリートを打設充填してコアー部分を造成できるが、構築された鉄筋コンクリート柱は、場所打ちコンクリートで形成したコアー部分とあらかじめ成型しておいたコンクリート製の外郭体が一体化し、しかも、外郭体に所要の間隔で揃列埋設されている剪断補強筋によつてコアー部分が拘束され、所定の圧縮強度を有するものとなる。すなわち、本願発明は、現場における型枠の組立て、解体作業あるいは剪断補強筋の配筋作業を不要にして、プレキヤストコンクリート工法の長所をフルに利用しつつ、主筋の接続に関しては、場所打ちコンクリート工法と同じ自由度を得るものである(第三欄第五行ないし第一八行、第五欄第八行ないし第六欄第八行)。
二 相違点<1>に関する判断について
原告は、審決の相違点<1>に関する判断において援用した引用例2記載の技術内容について、引用例2記載の柱PC型枠を、上下両端が開口し、かつ、柱主筋に上方から被嵌起立させ得る筒状のものと認定することには合理的根拠がない、と主張する。
しかしながら、成立に争いない甲第四号証によれば、引用例2の「まえがき」(第一七一五頁左欄初行ないし第六行)には、現場作業を少なくすることを目的としてプレキヤストコンクリート部材を部分的に使用することが記載されていると認められる。そして、成立に争いない乙第一号証(昭和四八年特許出願公開第九五一一号公報)、第二号証(昭和五一年特許出願公開第六七六二〇号公報)及び第三号証(昭和五五年特許出願公開第三〇〇三四号公報)によれば、コンクリート中空柱をプレキヤストし、その中空部分に生コンクリートを現場打ちする工法は、本件出願前の周知技術であると認められる。すなわち、昭和四八年特許出願公開第九五一一号公報記載の発明の特許請求の範囲は「中部に円形なる中空部と柱主筋を挿通する縦孔を設けた柱体及梁体を下方に円形なる空間部とこれに連らなる<省略>形にして下方を相対し突設した空部を設け<省略>形となしその上部の両端に接合鉄筋を突出しこれを工場に於てプレキヤストコンクリート製柱体及梁体及床板に生産しこの柱体上部に梁体及床板の端部を現場に於て架設組立て柱体及梁体に設けた空間部に現場に於て生コンクリートを充填し一体となすを特徴とする鉄骨鉄筋又は鉄筋コンクリート建築に於ける特殊工法」、昭和五一年特許出願公開第六七九二〇号公報記載の発明の特許請求の範囲は「プレキヤストコンクリート部材を用いた架構の組立方法であつて、柱に中空プレキヤスト部材を使用し、梁との接合部において梁の鉄筋を柱の中空部を利用して柱へアンカーし、中空部に接合用および充填用のコンクリートを打設する工程を特徴とする中空PCa柱を利用した組立構法」、昭和五五年特許出願公開第三〇〇三四号公報記載の発明の特許請求の範囲は「主筋、ラチス筋及びスパイラル筋で補強したコンクリート中空体からなり、同中空体の両端及び側面の継合部のみ鉄筋を露出させてなるラーメン構造用部材」であることが認められ、いずれも、コンクリート中空柱をプレキヤストし、その中空部分に生コンクリートを現場打ちする工法ないしこれに使用する部材に関する発明であることが明らかである。
以上のような事実を踏まえて考えると、当業者が別紙図面Cをみるならば、そこに表示されている「柱PC型枠」とは、一体化した型枠としてプレキヤストされ、上下両端が開口して、柱主筋に上方から被嵌起立させ得る筒状のものである、と当然に理解し得たというべきである。
この点について、原告は、別紙図面C表示の柱PC型枠は、フープ筋を巻装した柱主筋の外側を、複数枚のプレキヤストコンクリート板で囲繞し、各板をバンド等の緊締部材(横破線で表示されているもの)で緊締することによつて形成されているものと理解され、したがつて、これを上下両端が開口した筒状のものと認定することには合理的根拠がない、と主張する。しかしながら、別紙図面Cの<2>及び<3>に表示されている横破線をバンド等の緊締部材と解釈すべき必然性はないから、別紙図面Cの<2>及び<3>に横破線が表示されている点は、当業者が別紙図面Cに表示されている柱PC型枠を上下両端が開口した筒状のものであると理解することの妨げとなるとはいえない。
また、原告は、引用例2の「プレキヤストコンクリート(PC)型枠と、部分プレキヤスト(PC)梁を組立て」(第一七一五頁左欄第一四行ないし第一六行)という記載を、別紙図面C表示の柱PC型枠は板状のプレキヤストコンクリート型枠を現場で組み立てて形成するものであると理解することの論拠として主張する。しかしながら、引用例2の右記載は、型枠と梁とを現場で接続構築するという意味であると考えられるから、原告の右主張は失当である。
なお、原告は、引用例2記載の技術的事項ではフープ筋が主筋と一緒に埋設されるにもかかわらず、審決が引用例2記載の技術的事項を「柱主筋を埋設したコアー部分を形成する鉄筋柱の構築法」と認定したことを論難する。しかしながら、審決は、相違点<1>(すなわち、複数の主筋の構成)に係る本願発明の構成の進歩性の有無を判断するために必要な引用例2記載の技術的事項を援用しているのであつて、原告指摘の点は右判断に係わりのない事項であることはその説示から明らかであるから、原告の右主張は当たらないといわざるを得ない。
以上のとおりであるから、引用例2には複数本の柱主筋をフープ筋とともに所要の配置に植立した後、柱PC型枠を柱主筋にその上方から被嵌起立させ、その柱PC型枠の上端開口を通じ生コンクリートを打設充填して、右柱主筋を埋設したコアー部分を形成する鉄筋柱の構築法が記載されている、とする審決の認定は正当であり、したがつてこれを論拠とした相違点<1>に関する審決の判断に誤りはない。
三 本願発明が奏する効果について
原告は、本願発明が奏する効果として、主筋の接続については場所打ちコンクリート工法が有する自由度を確保しつつプレキヤストコンクリート工法の利点を最大限に利用して鉄筋コンクリートを簡便に構築し得ることを主張する。
右効果が、被告が指摘する本願明細書のaないしcの記載に基づくものであることは、被告が主張するとおりであると考えられる。
そこで検討するに、a(すなわち、外郭体を型枠代わりに使用しつつ、主筋を埋設したコアー部分を形成できる点)は、引用例2記載の柱PC型枠が前記のように筒状のものと理解される以上、引用例2記載の柱PC型枠によつて奏される効果と同一である。
また、b(すなわち、コアー部分が剪断補強筋によつて拘束され所定の圧縮強度を有する点、現場における型枠の組立て解体作業あるいは剪断補強筋の配筋作業が不要である点)は、引用例1記載の技術的事項によつて奏される効果と同一である。なお、コアー部分が剪断補強筋によつて拘束され所定の圧縮強度を有する点は、引用例2記載の技術的事項によつても奏される効果と考えられる。
さらに、c(すなわち、主筋の接続に関して場所打ちコンクリート工法と同じ自由度が得られる点)は、引用例2記載の技術的事項によつて奏される効果と同一であることが明らかである。
したがつて、本願発明の効果は引用例1及び引用例2記載の技術的事項が奏する効果の総和の域を出るものではない、とした審決の判断には何ら誤りはない。
四 以上のとおり、相違点<1>に関する審決の判断に誤りはなく、また審決が本願発明が奏する効果を看過したということもできない。したがつて、本願発明は引用例1及び2記載の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとする審決の認定判断は正当であつて、審決には原告が主張するような違法はない。
第三 よつて、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は失当であるからこれを棄却することとする。
〔編注1〕本願発明の要旨は左のとおりである。
複数本の主筋を所要の配置において植立したのち、
上下両端を開口したコンクリート製の筒体の、肉厚内に柱用の剪断補強筋を水平状態にして所要の間隔で揃列埋設して成る外郭体を、前記主筋に、その上方から吊下して被嵌起立させ、これによつて、各主筋の上側部分を外郭体の上方に突出するとともに、
その外郭体に、上端開口を通じて生コンクリートを打設充填し、前記主筋を埋設したコアー部分を形成することを特徴とする、鉄筋コンクリート柱の構築法(別紙図面A参照)
〔編注2〕本件における図面は左のとおりである。
別紙図面A
<省略>
<省略>
<省略>
別紙図面C
<省略>
<省略>
(他は省略)